staff interview

川野浩志

経歴

1998年 北里大学獣医畜産学部獣医学科卒業
2000年 東京大学附属動物医療センター研修医
2007年 米国 MedVet Medical & Cancer Center皮膚科 研修
2013年 米国 Veterinary Speciality Center皮膚科 研修
2014年 日本獣医皮膚科学会認定医取得
2014年 動物アレルギー医療センター院長就任
2017年 山口大学大学院連合獣医学研究科 卒業 獣医学博士学位取得(アレルギー研究)
2018年 動物アレルギー医療センター退任
2019年 クロス動物医療センターグループ皮膚・アレルギー科
2019年 東京動物アレルギーセンター センター長 就任 

獣医師になったきっかけは?

私は小学校2年の頃に2つの夢がありました。1つはプロ野球選手、もう1つが獣医師でした。当時純粋に「犬や猫の言葉を理解したい」と言う強い思いがあり、獣医師になれば動物と会話が出来ると信じていました。一方、少年野球では全国優勝を経験し、順風満帆で迎えた中学総合体育大会愛知県大会決勝で元メジャーリーガーのイチロー選手(投手)率いる豊山中に惜敗し挫折を味わいました。その後名門・愛工大名電高校から野球特待を受けたので父親に相談したところ猛反対されプロ野球選手の夢を諦め、獣医師になるために獣医大学進学を本格的に決意しました。

皮膚科診療風景

今後、どのような獣医療を提供していきたいか?

私は獣医学の中でも特に皮膚科学に興味があり、娘がアトピーだったこともあり特にアレルギー性皮膚疾患に対する興味が強くなりました。日々臨床現場で診療をこなすに連れて、標準治療だけではどうしてもうまく治療できないアレルギー症例に遭遇し、どうしたらもっとよい治療ができるか?を自問自答する日々を過ごしてきました。できるだけ薬物を使わずにアレルギーをコントロールしたいという飼い主のニーズも後押しして、姑息的な対症療法だけではなく根治療法ができないかという思いがドンドン湧いてきました。そんな中、ヒトの遺伝子治療や腸内細菌研究のエッジの効いたフロントランナーの専門家の意見に触れるチャンスがあり、ガットマイクロマイオーダーやエピダーマルマイクロバイオータに好奇心を抱くようになりました。人医療では血液を採取し、T細胞やナチュラルキラー細胞(NK)などの末梢血単核細胞(PBMCs) から分泌される炎症性サイトカインがより活性化するオーダーメイド乳酸菌を選んで経口投与もしくは経腸投与することにより瘍性大腸炎、掌蹠膿疱症、シェーグレン症候群、アトピー性皮膚炎などの慢性疾患を治療し、臨床症状が改善するのを目の当たりにしました。そこで、臨床レベルの研究をブラッシュアップし、その研究結果を臨床に落とし込んでアトピー性皮膚炎の犬に対して抗微生物戦略となる糞便移植やオーダーメイド乳酸菌の投与を獣医医療にも応用しました。動物病院で糞便移植や乳酸菌マッチング検査に基づくオーダーメイド乳酸菌による細菌療法(synbiotic therapy)によって腸内細菌の菌叢バランスを元に戻してあげることによってヒトのクリニックで花粉症の症状がなくなるのと同じように、目の前の動物のアレルギー症状がドラスティック2改善していくのをみて、ものすごく興奮していますし、その鍵を握っているのはやはり菌であろうと強く感じています。

東京動物アレルギーセンターの存在意義

東京動物アレルギーセンターでは皮膚科疾患の中でも特に多く遭遇する犬と猫のアレルギー性皮膚疾患に”羅針盤”の照準を絞り面舵いっぱい切りました。東京動物アレルギーセンターの役割は「犬と猫のアレルギー性皮膚疾患に対して対症療法ではなく、根治療法に挑戦し続けること」です。「その痒みの根本的な原因を取り除くことはできないだろうか?」という行動規範(バリュー)に基づき、「痒がる動物を1頭でも多く救いたい」という使命(ミッション)のため、犬と猫のアレルギー性皮膚疾患に対して対症療法ではなく根治療法を目指しQOLやADLを上げたいという理念(ビジョン)を胸に日々診療をしています。さらに、その延長線上にあるヒトのアトピー性皮膚炎の治療に獣医師として貢献できるよう可消化時間を捧げたいと思います。ホームスキンドクターとして痒いと言えないワンちゃんやネコちゃんを助けるため、そのオーナーさんのneedsやwantsに寄り添いベストな治療を提案します。

国際講演風景

学生へのメッセージ

ヒトも動物も例えるなら腸内フローラというアーマー(鎧)に包まれた風船だと思っています。これまでの研究で腸内細菌叢の乱れ(ディスバイオシス)と多くの全身疾患の関連性が報告されています。腸内フローラだけではなく皮膚(皮膚フローラ)、口の中(口腔内フローラ)、鼻の中(鼻腔フローラ)、膣(膣内フローラ)、子宮(子宮フローラ)など全身のマイクロバイオーム(微生物叢)の乱れを回復できるかどうかが健康でいられることに直結します。であるならば全身のマイクロバイオータというアーマー(鎧)を整え、細菌叢が持つ「レジリエンス(回復力)」をサポートすることによって全身の細菌叢の多様性を回復させる必要があります。逆に言えば、何か外界からの刺激があってもそのアーマーがレジリエンス(回復力)を発揮すれば私たちを守ってくれています。獣医学はまだまだ発展途上で解決しなければならない課題がたくさんあります。東京動物アレルギーセンターでは、アレルギー専門外来で目の前の動物が抱える問題点を解決しつつ、より多くの動物を救うために未来の動物を救うため、アレルギー性皮膚疾患や腸管免疫をターゲットとした臨床研究にも情熱を燃やしています。皮膚アレルギー分野に興味がある獣医学生の誰かと一緒に皮膚科臨床や臨床研究を通じてアレルギーというフィールドの開拓と獣医医療の発展のために併走できれば嬉しいです。